今回は、従業員の在職中及び退職後の秘密保持義務・競業避止義務について解説していきます。

秘密保持義務・競業避止義務とは

□ 秘密保持義務とは、業務上知り得た秘密を正当な理由なく社外(家族を含む)に漏洩することを禁止するもの

□ 競業避止義務とは、同業他社への就職や競業行為などを禁止するもの

情報漏洩の半数以上が従業員による故意又は過失によるものと言われています。情報漏洩などが発生すると、会社としても信用の低下、莫大な費用負担、売上の減少など様々な利益を失うことになります。
そこで、「秘密保持義務」「競業避止義務」を定めて情報漏洩リスクを減少させる努力が求められます。

在職中の従業員であれば、労働契約に付随する義務(信義誠実の原則)として、就業規則に定められているか否かにかかわらず、法律上当然に秘密保持義務・競業避止義務を負います。この義務に違反した場合、懲戒処分の対象になったり、解雇、損害賠償請求の対象になることがあります。

しかし、退職後の場合は、もはや労働契約が存在しないため根拠がなく、秘密保持義務や競業避止義務を当然に負うことはありません。
(※不正競争防止法上の不正競争に当たる場合には差し止め請求や損害賠償請求の対象となります。)

退職後にも秘密保持義務・競業避止義務を課すには

従業員の退職後に秘密保持義務・競業避止義務を課すためには、明確な根拠が必要となります。多くの場合、就業規則に明確な根拠を定め、かつ入社時の誓約書、重要秘密に触れるポジションに就いた際の誓約書、退職時の誓約書を取り交わすことによって、その存在を明確にしています。
しかし、実際に秘密保持義務違反や競業避止義務違反が問題となった場合、契約の内容によっては効力が認められないこともあります。

秘密保持義務の有効性
秘密の価値・性質・範囲・労働者の在職中(退職時)の地位
上記の内容を総合的に勘案して、秘密保持義務を課すことに合理性が認められる場合にのみ秘密保持義務は有効となります。

なお、会社が守るべき秘密情報は以下の2つに区別されます。
① 営業秘密
不正競争防止法により保護されており、秘密保持契約がなくても法的措置をとることができます。
※営業秘密とは、以下の3つ(営業秘密3要件)を全て満たしている秘密情報のことを言います。
・秘密として管理されていること
・生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な情報であること
・公然と知られていないこと
② それ以外の秘密
秘密保持契約により保護されており、契約違反に対して法的措置をとることができます。

競業避止義務の有効性
競業制限の必要性
(なぜ競業避止義務を課す必要があるのか)
競業制限の範囲
(制限区域の特定がされているか、制限期間はどのぐらいなのか、職種などの制限はあるのか etc)
労働者の在職時の地位
(重要な立場にあった者ほど認められやすい)
制限に対する代償の有無、内容、程度
(手当が支給されていたか etc)
上記の内容を総合的に勘案して、競業避止義務を課すことに合理性が認められる場合にのみ競業避止義務は有効となります。

競業避止義務は、労働者の「職業選択の自由」を直接制限するため、秘密保持義務に比べてより高度の必要性・合理性が求められます。そのため、「会社の利益保護」と「労働者が被る不利益の程度」のバランスが重要となります。

注意点

就業規則に明確な根拠を定めるだけでなく、入社時・重要秘密に触れるポジションに就いた時・退職時に秘密保持契約、競業避止契約を取り交わしておくこと
退職時にのみ誓約書を取り交わすことが多いですが、同業他社への就職が決まっている場合などには、誓約書を提出しないことが考えられます。万が一に備えて、就業規則への規定や入社時に取り交わすなどの対策をしておくことが重要です。

秘密の範囲を「無制限」にしないこと
会社としては「すべての企業秘密」としたいことは理解できますが、秘密保持契約や競業避止契約に法的効力を持たせるためには、範囲を明確にしておく必要があります。
「全ての秘密情報、競業禁止期間や競業区域も無制限」という内容では公序良俗に反し無効となる可能性が高いです。
範囲について明確な基準はありませんが、会社の利益を守るための最低限の範囲に留めておくことが望ましいです。

社会保険労務士 八尋 慶彦