副業・兼業を希望する人は年々増加傾向にあります。新たな技術を身に付けたり、起業の手段、収入の増加、そして第2の人生の準備として有効とされています。人生100年時代を迎え、若いうちから自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要であり、副業・兼業などの多様な働き方への期待が高まっています。
一方で、副業・兼業を行うことによる長時間労働の問題や企業秘密の漏洩リスクなどへの懸念もされています。
今回は、従業員が副業・兼業を希望した場合の会社の対応について解説していきます。

副業・兼業を一律禁止することは可能なのか?

副業・兼業を一律禁止する法律はなく、むしろ国としては「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を示すなど、今まで以上に副業・兼業を促進していく流れとなっています。
就業規則にて副業・兼業を一律禁止としている会社もありますが、たとえ就業規則で禁止していたとしても、合理的な理由がない限り裁判では無効と判断されます。

しかし、副業・兼業にはリスクも存在し、副業・兼業を全て認めなければならないとなると会社の正常な運営ができなくなることがあります。そこで、下記に定めるような合理的な理由が客観的に存在する場合には、禁止・規制をすることも可能となります。
① 労務提供上、会社の業務(本業)に支障が生じる場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

副業・兼業に関する裁判例

副業・兼業を禁止することに合理的な理由がない場合や本業に支障がないにもかかわらず副業・兼業を認めない場合などは、裁判で不法行為に該当し、損害賠償や慰謝料の請求が命じられることがあります。

《マンナ運輸事件 京都地裁 H24.07.13判決》
運送会社が、準社員からのアルバイト許可申請を4度にわたって不許可にしたことについて、そのうちの2回の不許可理由(働きすぎによる事故の危険があるため、機密漏洩リスクがあるため)については合理的な理由とは言えないとし、不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容(慰謝料のみ)された事案。

《十和田運輸事件 東京地裁 H13.06.05判決》
運送会社の従業員が、年1~2回貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇について、職務専念義務違反や信頼関係を破壊したとまではいえないとして、従業員に対して行った解雇が無効と判断された事案。

《小川建設事件 東京地裁 S57.11.19判決》
毎日6時間に及ぶキャバレーでの就労を会社に無断で行っていたことを理由とする解雇について、兼業は深夜に及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に何らかの支障をきたす可能性が高いことから、会社が従業員に対して行った解雇は有効と判断された事案。

運用上の注意点

副業・兼業を許可制とするためには、就業規則等にその旨記載しておくなど、明確な根拠が必要
⇒副業・兼業については法律に定めがなく、また、本業の就業時間以外はプライベートな時間であるため、副業・兼業を一律禁止とすることはできません。しかし、副業・兼業を行うことによって従業員の健康や安全など様々な問題が生じることもあるため、一定の事由に該当した場合には副業・兼業を認めないという「許可制」を導入することは可能です。
副業・兼業を許可制とする場合、就業規則に詳細や手続きをしっかりと明記しておく必要があります。就業規則への明記がない場合、従業員との労働契約上、副業・兼業についての定めがなく、原則として自由に副業・兼業を行うことができることになります。

事前に「兼業許可申請書」を提出させ、副業・兼業を認めるか否かを検討
⇒副業・兼業を許可するか否かを判断するために、副業・兼業先がどこなのか、どの程度の期間や日数働く予定なのかなどの詳細な情報を事前に提出してもらい、本業に支障が生じることはないか、企業秘密漏洩のリスクはないかなどを検討していく必要があります。さらに、副業・兼業先での毎月の出勤状況を正確に把握するために、出勤簿等を提出させることを義務化しておくと良いでしょう。

副業・兼業先での労働時間管理も必要
⇒副業・兼業をする場合、本業での労働時間と兼業先での労働時間は通算されます。
(例)本業:1日8時間 兼業先:1日2時間
この場合、1日の労働時間は10時間となり、2時間は時間外労働となります。この残業代をどちらが支払うのかについて法律上の定めはありませんが、一般的には後に雇用契約を締結した会社に支払い義務があると考えられています。ただ、全てのケースで後に雇用契約を締結した会社が支払うわけではなく、場合によっては先に契約した会社に支払い義務が課されることがあるため注意が必要となります。

秘密保持契約を締結し、情報漏洩リスクを防止
⇒企業秘密が漏洩すると様々な不利益が生じます。同業他社での就労ではなかったとしても、改めて秘密保持契約を締結し、漏洩リスクを抑えておくことが重要となります。

副業・兼業の希望があった場合には、本業に支障を生じないか、従業員本人の健康に悪影響はないかを検討し、問題ない場合に認めることが重要です。さらに、途中で本業に支障が生じてきたといったこともあり得ます。その場合に備えて、「副業・兼業の許可を取り消すことがある」旨の定めを置いておき、問題が生じた場合に副業・兼業を禁止することができるように就業規則等を整備しておくことも大切です。

社会保険労務士 八尋 慶彦