新型コロナウイルスの影響により、以前に比べて雇い止めや解雇を行う会社が増加しています。雇い止めや解雇が直ちに違法になるわけではありませんが、ルーズな労務管理を行っているとその有効性が認められなくなるため、日々適切な労務管理を行っていく必要があります。

今回は、雇い止めを行う際の注意点について解説していきます。

雇い止めとは

雇い止めとは、有期雇用契約を結んでいる従業員に対して、契約更新をせずに契約期間満了を理由として契約を終了させることです。

原則として、契約期間満了を理由とする雇い止めは違法ではありません。また、契約期間の満了をもって当然に労働契約は終了するため、解雇にもあたりません。しかし、適切な手順を踏まずに雇い止めを行った場合や雇い止めの理由によっては不当と判断され、雇い止めが無効になることもあります。

《雇い止めが無効になる基準(雇い止め法理)》
有期雇用契約が過去に反復更新され、実質的に無期雇用契約と変わらない場合
・過去に有期雇用契約を何度も行っているケース。
・契約更新時に面談などを行わず、雇用契約書にサインするだけのものになっているケース。
今回も契約を更新してくれるだろうと従業員が期待することについて、合理的な理由がある場合
・契約更新を期待させるような言動があるケース。
・正社員と全く同じ業務内容や責任を負っており、臨時的な仕事ではないケース。
なお、合理的な理由があったか否かについては、「業務内容、過去の更新回数、継続雇用された期間の長さ、更新手続きの有無や内容、期待させる言動の有無など」を総合的に考慮して判断されます。

上記①、②のいずれかに該当した場合には、雇用契約が今までの労働条件と同じ内容で更新されたものとみなされます(労働契約法第19条 法定更新)。

雇い止めを行う場合の適切な手順

既に述べたように、雇い止めはいつでも簡単にできるものではなく、労務管理上適切な手順で実施する必要があります。雇い止めを行う場合の適切な手順は以下の通りです。

有期雇用契約を締結する際に「契約期間」「契約を更新する場合の基準」について明確に雇用契約書及び就業規則に示しておく
⇒「会社が求めるものが何なのか」、「基準に満たない場合はどうなるのか」を説明し、認識の相違を無くしておきます。契約を更新する場合の基準については、数字目標を記載しておくなど、できる限り具体的にしておくべきです。

契約期間中に問題行動があれば、その都度注意・指導を実施
⇒パートやアルバイトだからといって何も言わないのは問題です。正社員、契約社員などの雇用形態にかかわらず、問題行動や勤務態度不良などがあれば同じように注意・指導を行い、改善を図っていきます。

契約更新時、「更新基準」に基づき契約を更新するか否かを個別の面談にて実施
⇒契約を更新する場合・しない場合のどちらであっても、「なぜ更新するのか、しないのか」を明確に伝えることが重要です。ここで重要なことは、「そこに次回の契約書を置いてるからサインしといて」など、契約更新が形骸化している状況です。これでは、形式は有期契約であっても実態は無期契約と変わらず、実際に雇い止めを行う場合にトラブルになる可能性が高く、争った場合にもかなり厳しくなります。

契約を更新しない場合、契約期間満了日の30日前までに文書にて「契約更新を行わない」旨伝えておく
⇒厚生労働省が、雇い止めをする場合には30日前までの事前告知を求めています。雇い止め予告は法律ではないため、守らなかったとしても違法とはなりませんが、裁判で争った際に不利になるため、告知をしておくことが望ましいです。

有期雇用契約は2~3年で見切りを付け、長期間、有期雇用契約を更新し続けることは避ける
⇒2~3年程度見れば、その従業員の能力・性格・勤務態度などはある程度把握できます。従って、無駄に何回も更新するのではなく、長くても2~3年程度で無期雇用契約にするか、雇い止めをするか決断するべきです。

裁判例

東芝柳町工場事件 最高裁 S49.07.22判決》

契約期間を2か月とする有期雇用契約を最大23回にわたって更新した後に雇い止めを行った事案。
臨時工として景気の変動による需給にあわせて雇用量の調整を図る観点から採用された者であるが、仕事の種類や内容に関して本工と差異はなく、また、採用にあたって長期継続雇用及び本工への登用を期待させる言動があり、会社は契約期間満了の都度直ちに新たな雇用契約締結の手続きを行っていなかった。さらに、過去に臨時工が2か月の契約期間満了により雇い止めとなった例はなく、そのほとんどが長期雇用されているなどの事情があったことから、実質的に無期雇用契約と変わらず、雇い止めは無効と判断された。

有期契約で働く従業員を保護する目的で作られた「雇い止め法理」により、会社は簡単に雇い止めをすることができない状況となっています。更に、有期契約期間が通算5年を超える従業員が無期雇用契約への転換を希望した場合、会社は無期雇用契約を締結しなければならないという法律が新たに作られました(労働契約法第18条 無期転換申込権)。その他にも、同一労働同一賃金に関する裁判も頻繁に発生しているため、今後はより一層労務管理を徹底していくことが重要です。

社会保険労務士 八尋 慶彦