食品や日用品、電気代の値上げなど、急激な物価高を受け、従業員の生活費を補填する目的でインフレ手当を支給する企業が増えてきています。

三菱自動車は、管理職を除く正社員など約1万2,000人に10万円を一時金として支給し、約2,000人の非正規社員に7万円を支給しています。オリコンでは、2022年10月から毎月1万円を給与に上乗せして支給しています。

今回は、インフレ手当を一時金又は毎月の給与の上乗せとして支給した場合の社会保険料はどうすれば良いのかについて解説していきます。

インフレ手当とは

インフレ手当とは、急激な物価高によって実質的に低下する給与の補填として支給される手当です。

2022年11月に帝国データバンクが実施した「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」では、物価高騰をきっかけとして従業員にインフレ手当を”支給した”企業は全体の6.6%、”支給予定”の企業は5.7%、”支給を検討中”の企業は14.1%となり、全体の4社に1社がインフレ手当に取り組んでいる又は取り組もうとしているという調査結果が公表されました。なお、”支給する予定はない”企業は全体の63.7%でした。
インフレ手当のうち、「一時金」の支給額の内訳をみると、「1万円~3万円未満」が27.9%で最も多く、平均支給額は5万3,700円となっています。一方、「月額手当(給与に上乗せ)」の場合の支給額の内訳をみると、「3,000円~5,000円未満」と「5,000円~10,000円未満」が30.3%で最も多く、平均支給額は6,500円でした。

社会保険料の取り扱い

《社会保険における報酬・賞与の定義》
□健康保険法・厚生年金保険法において「報酬」とは、労働者が労働の対償として経常的かつ実質的に受けるもので、被保険者の通常の生計に充てられる全てのもの(臨時に受けるもの及び3月を超える期間ごとに受けるものを除く)。
□健康保険法・厚生年金保険法において「賞与」とは、労働者が労働の対償として受ける全てのもののうち、3月を超える期間ごとに受けるもの

《社会保険料の取り扱い》
インフレ手当を一時金として支給する場合、毎月の給与に上乗せして支給する場合のどちらであっても、社会保険料の算定基礎に含めることになります。

インフレ手当を一時金として支給”賞与”扱いとなり、賞与支払届の提出が必要
インフレ手当を毎月の給与に上乗せして支給“随時改定”の対象となり、一定要件を満たせば月額変更届の提出が必要

インフレ手当を一時金として支払う場合「臨時に支給するため、社会保険料の算定基礎にならない」という意見をみますが、”臨時に受けるもの”とは、臨時的・突発的事由に基づいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものとされており、これに該当するものは極めて限定的であると考えられています。

年金事務所の回答としては、インフレ手当は、物価高騰に伴う生活費の補填という目的から、一時的に支給する場合であっても、社会保険料の対象になると判断しています。

インフレ手当を支給する場合の注意点

インフレ手当は社会保険料や雇用保険料の対象になる
⇒上記で説明したとおり、年金事務所としては「生活費の補填として通常の生計に充てられるもの」として報酬又は賞与の対象になると判断する可能性が極めて高いです。そのため、必要な届出を行っていなかった場合には社会保険の調査時に、遡って保険料を徴収される可能性があるため注意が必要です。

毎月の給与に上乗せして支給する場合、就業規則の改訂が必要
⇒一時金(賞与)として支給する場合は就業規則の改訂までは不要ですが、毎月の給与に上乗せして支給する場合、就業規則に必ず記載しておかなければならないため、例え数か月間限定の手当であっても、就業規則を改訂する必要があります。

ルールを明確にしていないとトラブルの原因になることもある
⇒インフレ手当として毎月の給与に上乗せして支給する場合、いつまで支給するかの問題が出てきます。いつまで支給するかを明確にしていない場合、打ち切りを行う際に、従業員の生活のために支給した手当が原因でトラブルに発展することになりかねず、本末転倒となります。いつまで支給するかについての判断は難しいですが、明確なルールを定めておくことが望ましいでしょう。

社会保険労務士 八尋 慶彦