従業員は、組織の一員として会社や上司の指示・命令を受けながら他の従業員と協力して業務を行う義務があります。しかし、中には上司に対して反抗的な態度をとり、指示・命令に従わない従業員が存在します。会社や上司からの指示・命令が不当なものであれば、従業員はその指示・命令に従う必要はありませんが、正当な指示・命令であれば、それに従う義務を負っています。

業務を行っていく中で、部下が上司に対して意見を述べたり議論したりすることはよくあります。しかし、それでも解決しない場合、最終的には上司が決めるものであって、部下は組織の一員として上司の判断に従うことになります。このような議論などの域を超えて反抗的な態度をとる従業員には適切な注意・指導が必要です。

今回は、上司に反抗する従業員への適切な対応について解説していきます。

モンスター従業員は実際に存在する

会社の規模にかかわらず、職場を乱す従業員は一定数存在し、その対応には非常に多くの時間と労力をとられるため、悩ましい問題となっています。モンスター従業員の態様は「上司の指示に従わない」、「上司に反抗的な態度をとる」、「無断欠勤などを繰り返す」、「顧客と頻繁にトラブルを起こす」など様々ですが、いきなり解雇を検討するのではなく、まずは改善の機会を十分に与え、実際に改善してもらうよう努力することが大切です。

このような手順を踏まずいきなり解雇などを行ってしまうと、解雇権の乱用となり無効となる可能性が極めて高いです。

反抗的な態度をとる従業員への適切な対応手順

反抗的な態度をとる従業員への適切な対応手順は以下の通りです。

従業員に対して個別に面談を行い、厳しく注意・指導を行う
⇒「上司の指示・命令に従わないことは会社の秩序を維持するうえで重大な問題であること」、「自分勝手な判断で行動し続けると思わぬ損害をもたらす可能性があること」を伝え、初回は口頭で厳重注意を行います(口頭での注意であっても必ず指導記録を残しておきます)。

問題行動が改善されない場合、その都度文書にて注意・指導を行う
⇒口頭での注意・指導で改善されない場合、「注意・指導書」を文書で交付し、改善の機会を与えます。会社からの警告のみでなく、従業員自ら問題行動を改善する意思を示してもらうため、「始末書」を提出させることも重要です。
※始末書を強制的に書かせることは望ましくありません。始末書を提出しないのであれば、「反省・改善の意思無し」と判断し、その記録を残しておきます。

懲戒規程に基づき懲戒処分を行う。
⇒懲戒処分とは、「職場の規律違反に対する制裁(ペナルティ)」です。まずは軽い懲戒処分(譴責)から検討し、改めて上司の指示・命令に従うよう促します。それでも全く改善しない場合、重い懲戒処分を検討していきます。
※懲戒処分を行う場合には、就業規則にしっかりと明記しておく必要があります。就業規則がない場合には懲戒処分を行うことはできませんのでご注意ください。

最終的には退職勧奨や解雇を検討。
⇒普段から反抗的な態度をとり、それを改めない従業員がいる場合、周りの従業員のモチベーションの低下などに繋がり、優秀な従業員が退職してしまうリスクが高まります。それを避けるためにも、改善する意思がない従業員については、最終的に退職勧奨を行い、話し合いで解決しないようであれば解雇に踏み切るしかないと考えられます。

裁判例

《山本香料事件 大阪地裁 H10.07.29判決》
(事件の概要)
調香士として採用された従業員が、新研究所の配置図に自分の机が無いことに怒り、直属の上司に激しく抗議したり、漆器を購入する際、経理担当課長が費用や発注先の業者を尋ねたら「なぜそこまで口出しするのか」と反抗的な態度をとった。さらに、道具を勝手に購入し、経理担当課長の問い合わせに対し「いちいち、課長に言われることはありません」と反発したり、直属の上司に「上司らしいことを何もしてくれず、上司面するな」と怒鳴るなど、上司に対して反抗的であり、過激な言動を発して指示に従わず、職場秩序を乱したことを理由に普通解雇した。
(裁判所の判断)
解雇事由の一つ一つをとって解雇事由とするにはいずれもいささか小さな事実にすぎないが、上司への反抗的態度、過激な言辞を発してその指示に素直に従わないことを総じてみれば、職場の秩序を乱すもので解雇権の濫用に当たらず有効とされた事案。

モンスター従業員に対して解雇を検討する場合、「十分な注意・指導を行ったと言えるか」、「問題行動が繰り返し行われており、改善の意思がないことが明白であるか」「問題行動が原因で職場の業務や秩序に支障を生じているか」について検討を行い、解雇する他ないと言える場合に限り実施していくのが適切です。
なお、やりとりや指導記録は全て記録あるいは録音し、争いになった際に証明できるようにしておくことも大切です。

社会保険労務士 八尋 慶彦