労働基準法により、1週間の所定労働時間は40時間以内、1日の所定労働時間は8時間以内(これらを法定労働時間と言います。)に設定しなければならないのは広く知られています。しかし、例えば医療機関における診療時間の関係や飲食店における業務の繁閑など、様々な事情によってこの上限を超えてしまうこともあります。時間外/休日労働に関する協定届(36協定届)を締結し、労働基準監督署に届け出ている場合は直ちに違法ということにはなりませんが、労働時間が長くなり、残業代の支払いが増えてしまいます。
そこで、より柔軟な労働時間制度として活用できるのが「1か月単位の変形労働時間制」という制度です。

今回は、1か月単位の変形労働時間制の内容や導入要件について解説していきます。

1か月単位の変形労働時間制とは

1か月単位の変形労働時間制とは、就業規則又は労使協定に一定の内容を定めることにより、1か月の所定労働時間を平均して週40時間以内に収まっているのであれば、予め定めた週又は日の労働時間について、法定労働時間を超えて働かせることができるという制度です。

(例)
1週目9H9H9H9H9H45H
2週目7H7H7H7H7H35H

上の表のように、1週目は毎日9時間労働(週45時間労働)とし、2週目は毎日7時間労働(平均35時間労働)とすることによって、平均して週40時間以内に収まります。1か月単位の変形労働時間制を導入していない場合は、1週目の5時間分について残業代(割増賃金)の支払いが必要となりますが、1か月単位の変形労働時間制を導入することで残業代の支払いは不要となります。

なお、1か月単位の変形労働時間制は、「1か月間」に限られていないため、例えば4週間単位で設定するなど、1か月以内の期間でも可能です。
※実務上は計算や管理が非常に煩雑になるため、対象となる期間を「1か月」に設定している会社が圧倒的に多いです。
※常時10人未満の商業・医療業・接客娯楽業などについては週平均44時間まで設定可能です。

導入するための要件

1か月単位の変形労働時間制を導入する場合は、就業規則に下記の内容を全て記載する必要があります。従業員数が10人未満で就業規則の作成義務がない事業所の場合は、労使協定に下記の内容を全て記載し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

  • 1か月単位の変形労働時間制を採用する旨の定め
  • 変形期間における各日、各週の労働時間
  • 変形期間を平均し、週40時間を超えない旨の定め
  • 変形期間の長さ及び起算日
  • (労使協定に定めた場合のみ)労使協定の有効期間

注意点

各日、各週の労働時間を予め具体的に特定しておく必要がある
⇒1日、1週間の労働時間の長さを定めるだけでなく、始業・終業時刻も具体的に特定しておく必要があります。

労使協定に定めた場合でも、就業規則に同じ内容を定めなければならない場合がある
⇒1か月単位の変形労働時間制を導入する方法として、就業規則に定める方法と労使協定に定める方法の2パターンがあります。しかし、従業員との契約内容とするためには就業規則にも同内容を規定する必要があるため、実務上は就業規則に定めることによって導入するケースが多いです。

残業代の計算が非常に煩雑になる
⇒通常の労働時間制(1週40時間以内、1日8時間以内)の場合は、1週間の労働時間と1日の労働時間の2つを確認すれば良いですが、1か月単位の変形労働時間制を採用した場合、1か月の総枠にも上限時間が現れます。具体的には、1か月間で下記の表に記載の労働時間を超えることはできず、この時間を超える場合は残業代の支払いが必要となります。

28日の月29日の月30日の月31日の月
所定労働時間の上限160時間165.7時間171.4時間177.1時間
※週44時間の特例事業は上限時間が異なります。

1か月単位の変形労働時間制を導入することによって、忙しい時は長い時間に設定し、比較的余裕がある時は短い時間に設定することができるなど、より柔軟な働き方ができるようになります。また、残業時間や残業代の抑制を図ることもできます。しかし、導入要件や制度を正しく理解していないと、残業代の未払いなど法違反になることもありますので注意が必要です。

社会保険労務士 八尋 慶彦