ドライバー職や営業職など、仕事の内容によっては運転免許必須である場合も多く、現代では多くの人が保有している自動車免許ですが、道路交通法などの重大な違反行為によって免停や免許取消処分を受けることもありえます。免停や免許取消処分を受けた場合、仕事に支障を生じることもありますが、その際に従業員を解雇(クビ)にできるかどうかが問題になることがあります。

今回は、免停や免許取消処分を受けた従業員への適切な対応について解説していきます。

免停・免許取消処分を受けた場合に解雇は可能なのか?

交通違反を繰り返したり、酒酔い運転や煽り運転など場合によっては1回の違反行為であっても1発で免停や免許取消処分になることがあります。理由はどうあれ免停や免許取消処分を受けるということは重大な違反行為を行っていることになり、そのような従業員をそのまま会社で雇用しておくことに抵抗がある方もいるのではないでしょうか。しかし、労働法は非常に強い法律であるため、簡単に解雇することはできません。

《解雇権濫用法理 労働契約法第16条》
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となる。」

つまり、免停や免許取消処分を受けた従業員を解雇することについて、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるかどうかを検討する必要があります。この場合、従業員との雇用契約上、職種や業務内容を限定していたか否かが重要となります。職種や業務内容を限定していた場合、運転業務以外の業務に就くことは想定されておらず、比較的解雇が認められやすい傾向にあります。逆に、職種や業務内容を限定していなかった場合、解雇は簡単には認められないことになります。

《職種や業務内容を限定していたか否かの判断基準》
雇用契約書において、職種や業務内容が運転職・運転業務に限定する記載になっていたか
求人票に記載されている採用条件がどうなっていたか
就業規則で、異動に関する定めはどうなっているか
過去に運転業務から他の業務への異動は行われていたか


上記①~④の内容を総合的に見て、職種や業務内容を運転業務に限定していたかどうかを判断することになりますが、仮に職種や業務内容を限定していたとしても、裁判所は「免許取消があったからといって即解雇とするべきではなく、免許取消に至った経緯・他の業務への異動の容易性・過去の会社内での運転職から他の職種への異動の実情等を考慮して判断すべき」と考えています(東京エムケイ事件 東京地裁 H20.09.30判決)。

すなわち、免停や免許取消に至った事情にもよるものの、1回の免停や免許取消で即解雇とするのは厳しすぎると判断されるリスクが大きいです。ただし、懲戒処分の対象となる可能性は十分あり、さらに何度も免停を繰り返し、業務に重大な支障を生じさせたような場合や、会社への影響が非常に大きく、見逃せない状況であるような場合は解雇が認められやすくなります。

注意点

事情にもよるが、即解雇ではなく、まずは異動や休職を検討してみる
⇒前述の通り、解雇は非常にハードルが高いため、まずは運転職以外の他の職種への異動や休職制度の活用を検討してみるべきです。運転ができない期間は他の職種で勤務したり、休職制度を活用して休職を命じ、運転できるようになったら元の職種に復帰させることになります。

就業規則の解雇事由を整備
⇒解雇を行う場合に備えて、就業規則の解雇事由に「運転免許取消により運転業務に従事できなくなったとき」と明記しておくことが望ましいです。特に懲戒処分や懲戒解雇を行う際には、就業規則に明記されていないと無効になるため注意が必要です。

ドライバー職以外の職種の場合、解雇はかなり厳しい
⇒ドライバー職(タクシー運転手やトラック運転手など)の場合は、運転業務を行うことが明らかにされているケースが多く、他の職種に比べて解雇が認められやすいですが、それ以外の職種の場合は特段の事情がない限り解雇はできないと考えられます。たとえ営業職であっても、営業は様々な手段を用いて行うことが可能であるため、免停や免許取消処分を受けたという事実だけで解雇にはできません。

社会保険労務士 八尋 慶彦