一定数の従業員を雇用している企業では、障害者を一定数以上雇用することが求められています。具体的には、企業の規模に応じて国が定める人数以上の障害者を雇用し、毎年4/1~5/15の期間内にその内容を報告することが義務付けられています。今回は、常用雇用労働者数が100人を超える企業を対象とした「障害者雇用納付金/調整金制度」について解説していきます。

障害者雇用納付金/調整金制度の概要

障害者を雇用するには、作業施設や設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理等が必要とされていることが多く、経済的負担を伴うことから、雇用義務を果たしている企業と果たしていない企業とではその経済的負担に差が生じます。

障害者雇用納付金制度は、身体障害者・知的障害者・精神障害者を雇用することは、企業が共同で果たすべき責任であるとの社会連帯責任の理念に立って、企業間の障害者雇用に伴う経済的負担の調整を図るとともに、障害者を雇用する企業に対して援助を行うことにより、障害者の雇用の促進と職業の安定を図るため、「障害者雇用促進法」に基づいて設けられた制度です。

この制度は、常用雇用労働者数が101人以上の企業を対象としており、毎年4/1~5/15の期間内に申告・納付することが義務付けられています。

【常用雇用労働者数の考え方】
⇒正社員、パートなどの雇用形態にかかわらず、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ1年を超えて雇用される者(1年を超えて雇用される見込みがある者を含む。)を常用雇用労働者と言います。
※育児休業や介護休業など、休職や休業している労働者も含みます。
※1週間の所定労働時間が20時間未満の者については、障害者雇用納付金制度上の常用雇用労働者数に含まれません。

⇒常用雇用労働者のうち、「週30時間以上の者」は1人を1人カウント、「週20時間以上30時間未満の者」は1人を0.5人カウントします。
(例)
従業員数:150人の企業
〇週30時間以上の者:80人⇒1人を1カウント
〇週20時間以上30時間未満の者:20人⇒1人を0.5カウント
〇週20時間未満の者:50人⇒カウントしない
80人×1カウント+20人×0.5カウント=90人101人となり、その月は常用雇用労働者数101人未満となる。

障害者雇用納付金/調整金とは?

令和6年度において障害者雇用納付金の申告をしなければならない企業の範囲は、前年度(令和5年4月~令和6年3月の1年間)の各月ごとにおける常用雇用労働者数について、101人以上の月が5ヶ月以上ある企業となります。

障害者雇用納付金制度の対象となる企業は、「各月の常用雇用労働者数×法定雇用率(令和6年度は2.5%)」を令和5年4月から令和6年3月までの12か月間全ての月ごとに計算し、それを合計した数の障害者を雇用する必要があります。

(例)45・・・3年間
合計
常用雇用
労働者数
9296215
法定雇用
障害者数
22537
〇短時間以外
重度の
身体障害者
13
〇短時間以外
重度以外の
身体障害者
24
●短時間
重度の
知的障害者
24
●短時間
重度以外の
知的障害者
11216
※業種によっては除外率が設定されていますが、ここでは加味しておりません。
週所定労働時間30時間以上20時間以上30時間未満10時間以上20時間未満
重度の身体障害者210.5
身体障害者10.5
重度の知的障害者210.5
知的障害者10.5
精神障害者11(※1)0.5
※1)当分の間の措置として、精神障害者である短時間労働者は、雇入れ日からの期間にかかわらず、1人を1カウントとみなします。

法定雇用障害者数:37人
障害者の雇用実績:3人(短時間以外かつ重度の身体障害者数)×2カウント+4人(短時間以外かつ重度以外の身体障害者数)×1カウント+4人(短時間かつ重度の知的障害者数)×1カウント+16人(短時間かつ重度以外の知的障害者数)×0.5カウント=22人

〇 障害者雇用納付金 〇
法定雇用障害者数の合計」>「雇用している障害者数の合計」の場合
(法定雇用障害者数の合計-雇用している障害者数の合計)×50,000円を納付金として納付しなければなりません。
上記の例でいうと、(37人-22人)×50,000円=750,000円を令和6年5月15日までに納付しなければなりません。

※納付額が100万円以上になる場合は、3期に分けて、それぞれ1/3ずつ納付することもできます。

〇 障害者雇用調整金 〇
法定雇用障害者数の合計」<「雇用している障害者数の合計」の場合
雇用している障害者数の合計法定雇用障害者数の合計)×29,000円を調整金として受け取ることができます。

※入金時期は、令和6年10月~12月頃となっています。

実態調査も行われます!

この制度は、実際に申告された内容が正しいかどうかの調査対象となっています(障害者雇用促進法第52条)。
具体的には、「雇用する障害者の障害の種類等を明らかにする書類等の添付を義務付けていない納付金申告企業」及び「常用雇用労働者数が301人以上の調整金申請企業」を主な対象として、計画的に調査が行われています。
その中で確認される主な項目は次の通りです。

  • 常用雇用労働者数の確認
    ⇒申告された書類に記載されている各月の常用雇用労働者数に相違がないかどうかについて確認があります。
  • 雇用する全ての障害者に関する確認
    ⇒雇用する全ての障害者(既に退職済の障害者も含む)が申告の対象となる障害者であるか、障害者の雇用区分が適正であるかについて確認があります。

【調査の結果】
① 申告した納付金の額が過小であった場合
⇒実際に納付すべき額との差額+追徴金(実際に納付すべき額との差額の10%)を指定された期限までに納付しなければなりません。

② 申告した納付金の額が過大であった場合
⇒実際に納付すべき額との差額が還付されます。

③ 支給を受けた調整金の額が過大であった場合
⇒申請すべき額との差額を返還しなければなりません。

令和6年度の障害者雇用納付金制度は、前年度に比べて数点変更されています(法定雇用率の引上げ、除外率の引下げ、障害者の算定方法の変更など)。最新の情報を確認し、期限内に適正に申告していただくようお願いいたします。

社会保険労務士 八尋 慶彦