就業規則を作成し、周知させている企業の中には、従業員の入社時や退職時などに個別の誓約書(就業に関するルール等)を取得しているところも多いと思います。実際に個別の誓約書を取得することによって、従業員に自覚を促したり、企業の秩序を維持していくことには大きなメリットがありますが、就業規則で定められている内容と個別の誓約書に記載されている内容に相違があるような場合、誓約書の効力が限定あるいは無効となってしまうリスクが存在します。そこで今回は、就業規則と個別の誓約書に矛盾がある場合の問題点や対応について解説していきます。

就業規則に違反する労働契約の効力は?

労働契約法第12条に「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となり、その無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と定められています。つまり、就業規則で定められている内容を下回る労働条件は全て無効になってしまいます。

例を挙げますと、就業規則には「基本給:20万円以上」と定められているが、雇用契約書では「基本給:18万円」と記載されていた場合、就業規則で定める基準(基本給は20万円以上を支給するという基準)よりも低い労働条件となっており、その部分については無効(基本給18万円という部分は無効)、無効となった部分は就業規則で定める基準(基本給は20万円以上を支給するという基準)になります。

上の例は就業規則にも個別の雇用契約書にも明示がある場合について記載しましたが、中には、就業規則には記載がなく、個別の雇用契約書や誓約書には記載があるといった場合も多いです。

就業規則と個別の誓約書の内容が異なる場合

就業規則で定める内容と個別の誓約書や雇用契約書で定める内容が異なる場合、一般的には従業員に有利な内容が優先され、片方は無効となります。

(例)Aという義務については就業規則及び個別の誓約書の両方に定められているが、Bという義務については個別の誓約書にしか定められていない場合
⇒Aという義務は両方に定められているにもかかわらず、Bという義務は誓約書にしか定められていない。つまり、Bという義務は就業規則では義務を課していないため、Bという義務は従業員には課されないと判断されるリスクが発生します。この場合、Bという義務を誓約書に定めていたとしても、その部分は無効となり、その義務に違反したとしても何ら問題ないという結果になります。

このように、個別の誓約書を従業員と取り交わす際には、就業規則にも同じ内容を定めておくことが重要ですが、中々難しい場合も発生してきます。特に、ある従業員とは誓約書を取り交わすが、別の従業員とは誓約書を取り交わさない(取り交わす必要がない)ようなケースも出てきますし、誓約書の内容と就業規則の内容に相違がないかを1つ1つ確認していくには非常に時間と労力を伴います。このような問題に備えて、就業規則の内容を工夫し、様々な場面を想定しておくことによってトラブルを回避でき、また、従業員からの主張にも十分に対応できるようになります。

様々な企業の就業規則や契約書、誓約書をチェックしてきましたが、今回の問題に対応出来ているケースはあまり多くありません。誓約書に様々な事項を定め、それを従業員と取り交わしているが、就業規則にはその定めがないあるいは矛盾しているケースが非常に多いです。しかし、実際にトラブルが発生すると、従業員側はこのような観点から誓約書に従う義務は無いと主張してきます。個別に誓約書などを取得している企業は、是非一度確認していただき、矛盾があるような場合は早急に見直しすることをおすすめします。

社会保険労務士 八尋 慶彦