福利厚生の一環として、住宅費の補助を目的とした社宅の提供や住宅手当の支給を行っている会社は多いと思います。どちらの制度も非常にメリットが大きいものですが、実際に導入する際に「社宅を提供する場合」と「住宅手当を支給する場合」とで税金や社会保険料、企業リスクが異なってきます。そのため、どちらの制度を導入すれば良いかのご相談をお受けすることがあります。そこで今回は、それぞれの制度の概要やメリット・デメリットについて解説していきます。

それぞれの制度のメリット・デメリット

社宅制度とは、会社が所有する物件を従業員に貸し付けるケース(社有社宅)と会社が物件を借りてそれを従業員に貸し付けるケース(借上げ社宅)の2パターンがあります。近年では借上げ社宅のパターンが多いですので、今回は借上げ社宅について取り上げます。
一方、住宅手当を支給する制度とは、社宅の代わりに住宅費の補助として毎月一定金額を給与に上乗せして支給するものです。
どちらの制度も住宅費の補助を目的としていますが、以下のようなメリット・デメリットがあります。

〇 社宅を提供する場合

メリットデメリット
●一定の要件を満たせば税金や社会保険料が発生しない●退職時に支払いを巡ってトラブルになることがある
●採用面でのアピール材料になる●1件ごとに契約や手続きなどが発生する

〇 住宅手当を支給する場合
メリットデメリット
●契約や手続き等が発生しない●税金や社会保険料が発生する    
●家賃や退居費用に関するトラブルがない

税金・雇用保険料・社会保険料の取り扱い

社宅を提供する場合と住宅手当を支給する場合とで所得税、雇用保険料、社会保険料の取り扱いが異なり、具体的には以下のようになります。

● 社宅を提供する場合 ●
1. 所得税
賃貸料相当額の50%以上」を徴収する場合、給与として課税されません。
2. 雇用保険料
現物給与の価額の1/3以上」を徴収する場合、雇用保険料はかかりません。
3. 社会保険料
現物給与の価額以上」を徴収する場合、社会保険料はかかりません。

※現物給与の価額とは、厚生労働大臣が定めるもので都道府県ごとに異なります。

(例)家賃相当額60,000円(30㎡)の物件を会社が借り上げ、従業員から毎月半額(30,000円)を徴収する場合
現物給与の価額 = 30㎡ ÷ 1.65㎡ × 1,430円(令和6年2月現在 福岡県の場合)
        = 25,999円(1円未満切り捨て)
1. 所得税は「賃貸料相当額の50%(30,000円)以上」を徴収しているため、非課税となります。
2. 雇用保険料は「現物給与の価額の1/3(8,666円)以上」を徴収しているため、かかりません。
3. 社会保険料は「現物給与の価額(25,999円)以上」を徴収しているため、かかりません。

● 住宅手当を支給する場合 ●
1. 所得税
給与(賃金)扱いとなるため、他の給与と同様に所得税が発生します。
2. 雇用保険料
給与(賃金)扱いとなるため、他の給与と同様に雇用保険料が発生します。
3. 社会保険料
給与(賃金)扱いとなるため、他の給与と同様に社会保険料が発生します。

社宅制度を導入する場合の注意点

① 退職時の費用に関するトラブルについて
⇒住宅を従業員に貸し付けて、給与から毎月天引きする方が税金面や社会保険料の面でメリットは大きいですが、従業員が急に退職して連絡が付かなくなる場合も考えられます。そのような事案に対応するために、入社時に誓約書を取得し、最終給与から差し引くことについて同意を得ておくことが望ましいです。

② 現在の従業員との均衡の問題について
⇒これから入社する従業員に住宅を提供して会社が一定額を補助するような場合、現在の従業員との間で公平性の問題が生じます。その点、現在の従業員に住宅手当を支給するべきか、特に何も考慮せずに運用を開始するか等を事前に決めておいた方が無難です。

税金や社会保険料の負担面だけを見れば社宅制度を導入した方が良いですが、社宅の場合は手続き等で時間が取られたり、予期せぬトラブルに発展したりするケースも存在します。そのため、どちらが良いと一概に決めることはできませんので、自社に合った制度を導入することをおすすめします。

社会保険労務士 八尋 慶彦