応募者の採用選考をする際、その人がどのような人なのか、企業が求める人材に合っているかを確認するために様々な質問をしてその適性等を見極めていきます。しかし、法律上採用選考にあたって聞いてはいけない事項が存在します。面接という独特の雰囲気からくる緊張を少しでも和らげたいという思いから軽い気持ちで質問した内容が後々問題となることもあります。

しかし、採用選考時に必ず聞いておくべき質問もあり、具体的にどこまで質問して良いのか分からないという方も多いことでしょう。

そこで今回は、企業が採用選考時に聞いてはいけない質問、聞くべき質問について解説していきます。

採用選考時に聞いてはいけない質問とは?

企業が応募者と面接などの採用選考を行う際、「応募者の基本的人権を尊重すること」、「応募者の適性と能力のみを選考基準とすること」の2点を意識する必要があります。応募者の適性や能力とは関係のない事項については、たとえ採用基準としていないつもりでも、把握すれば結果としてどうしても採否決定に影響を与えることになってしまい、就職差別につながるおそれがあります。そのため、職業安定法では、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などを本人の同意なく収集することを禁止しています。これを具体化するために、厚生労働省は「採用選考時に聞くべきではない項目」を挙げています。

《本人に責任のない事項を聞いてはいけない!》

本籍・出生地に関すること
「出身地はどこですか?」「生まれてから今までずっと同じ住所ですか?」などの質問がこれにあたります。また、「戸籍謄(抄)本」や「本籍が記載された住民票(又はその写し)」を提出させることもできません。

家族に関すること
家族の職業、健康状態、病歴、社会的地位、学歴、収入、資産などの事項も聞くべきではありません。「ご両親のお仕事は?」「ご両親の出身地は?」などの質問がこれにあたります。

住宅状況に関すること
「家の間取りは?」「賃貸住宅ですか?」などの質問や、自宅の周辺施設などの確認もするべきではないでしょう。

生活環境・家庭環境などに関すること
「同居している人はいますか?」など、現在や過去の生活環境や家庭環境についても話題にすべきではありません。

男女雇用機会均等法に抵触すること
「結婚・出産しても働き続けられますか?」「何歳まで働けますか?」「結婚の予定はありますか?」などの質問がこれにあたります。

《本来自由であるべき事項を聞いてはいけない!》

宗教や支持政党に関すること
「宗教を信じていますか?」「何の宗教を信じていますか?」「何党を支持していますか?」「先日の選挙では、誰に投票しましたか?」「ご家族の支持政党は?」など、宗教や支持政党に関する質問を聞いてはいけません。

人生観、生活信条に関すること
「将来どのような人になりたいですか?」「信条としていることはありますか?」などの質問がこれにあたります。こういったことは「一般的な話題」と思って聞いてしまいがちですが、配慮すべき事項に含まれるので注意が必要です。

尊敬する人物に関すること
「誰を尊敬していますか?」という尊敬する人物に関する質問もしてはいけません。

思想に関すること
業務と関係ない個人的な物の考え方などについても話題を振るべきではありません。

労働組合に関すること
これまでの活動歴や加入状況、学生運動など社会運動に関することを聞いてはいけません。

採用選考時に聞くべき質問とは?

採用選考時に、次のようなことであれば聞いても問題ありませんし、むしろ聞くべきものもあります。

面接で聞いても問題ない質問》

これまでの職歴、経歴、実績など
これまでの職歴や経歴、実績、得意なことなどは採用選考にあたって重要な情報となるので、聞いても問題ありません。

応募動機や就職後にやりたいこと、目指したいこと
志望動機や就職後に携わりたい業務内容、取得したい資格、今後目指すべき仕事人としてのイメージなどについては、業務に関することなので質問しても問題ありません。

自社へのイメージ
「自社へどういったイメージを持っているか?」という質問も、志望動機ややりたいことと直接関係するので聞いてもかまいません。

健康情報の調査について
採用選考時に、業務の目的達成に必要な範囲内であれば可能と考えられます。
例えば、配送等のドライバーを募集するにあたって、事故を防ぐために失神等の発作の有無を確認することは必要であると考えられています。

必ず確認すべき質問

面接時に確認しなかったことによりトラブルが発生するケースもあるので、以下の項目は必ず確認しておくべきです。

保有資格、経歴について
応募者の保有する資格や転職歴などの経歴についてはしっかりと確認しておきましょう。
資格や経歴を信頼して採用しても、実は詐称していたというケースは少なくありません。

犯罪歴について
過去に犯罪歴がある場合でも、応募者は「質問されない限り」答える必要がありません。
直接面接の場で質問するか、提出書類の中に「賞罰」の欄を設けて応募者が申告しなければならない状態にしましょう。

聞いてはいけない質問をしてしまった際に企業が負うリスクとは?

違法行為とされる可能性がある

職業安定法では、「採用選考の際、必要な範囲を超える個人情報を同意なく収集してはならない」旨を定めており、これに違反すると行政から改善命令がなされ、その改善命令にも違反すると「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑」が適用されます。
面接時に、企業側が応募者の本籍地や家族関係、思想信条や宗教、支持政党などの情報を集めると、職業安定法違反となってしまいます。面接を受けた応募者が不快に思って通報した場合、指導や改善命令が出される可能性がありますし、命令に従わなければ企業名を公表されるおそれもあります。

企業のイメージダウンにつながる可能性がある

今は多くの学生や求職者がインターネットで情報収集をしています。面接で不快な質問をされた学生や求職者が、転職口コミサイトやSNSなどに「○○社では面接でこのようなことを聞かれた」などと書き込むと、その企業のイメージダウンに繋がります。
評判が悪くなって応募する人が減ったり、現在の従業員のモチベーションが下がってしまったりする可能性がありますし、取引先からの信用を失うリスクもありますので、選考の際には、仕事や能力と無関係な質問をすべきではありません。
たとえ、「場を和ませるため」「一般的な話題」と思って質問した内容でも、個人的な内容で応募者が不快に感じたら問題が発生する可能性があります。

採用選考は人を採用する企業であればどの企業でも実施することになりますが、意外と知られていない禁止事項も多数存在します。また、数十分間という限られた時間の中でその人の適性や能力を見極めることは非常に難しく、ミスマッチが出てくることは避けられません。しかし、だからといって禁止されている事項を質問してしまうと思わぬトラブルに発展してしまう可能性もあるため、しっかりと事前準備をした上で選考を実施していく必要があります。

社会保険労務士 八尋 慶彦